前回は、環境DX化の課題と展望について概括してきましたが、今回は、廃棄物・資源循環分野における外部環境や、対応課題を踏まえた環境DX化の検討の具体的な流れについて解説します。
環境DXに向けた取組課題について
産業界では、人口減少や環境問題への適切な対応、グローバルな事業展開、デジタル化に適合した製品・サービスの開発、労働生産性の向上などを実現し、利益を本当に伸ばせるのかが企業存続の重要なテーマとなっています。
そして廃棄物・資源循環分野に属する企業においては、産業界との新たなバリューチェーンを構成する間接主体として、「選択される企業」となり、生き残りに向けた変革が求められることになります。
廃棄物・資源循環分野におけるDXの対応課題
実際にDXに取り組むにあたり、廃棄物処理・資源循環分野での対応課題として、これらの4項目が考えられるでしょう。
No. | 項目 | 対応課題 |
---|---|---|
1 | カーボンニュートラル(CN)、グリーンエネルギー化(GX)への対応 | ① CNへの対応 焼却事業の見直し(焼却抑制+CCS、CCUS) 廃プラスチックリサイクル(廃プラ新法への対応) 食品バイオマスリサイクル(焼却によるCO2削減) Scope3への対応(CO2の見える化と外部情報連携) ② GXへの対応 鉄鋼、セメント、化学工業による原料・エネルギー見直しとの連携(ケミカルリサイクル、水素エネルギー、CO2の回収・原料化)→廃棄物処理・利用の大幅な転換 |
2 | 循環経済への対応(CE) | トレーサビリティによる原料・品質・保証(ブロックチェーン技術の利用含む) 上流側の取組み(プラ選別回収、非鉄金属高品位回収)との連携、個社・業界等の取組みへの参画 |
3 | 人手不足、働き方改革 | ビジネスプロセスの改革による生産性向上 基幹システムの見直し(受注―契約ー配車ー処理・管理ー請求の一括管理、RPA導入による作業効率化) 自動運転システムの導入(属人化の解消) 自動選別ロボットの導入(人手による土間選別、手選別の見直し) |
4 | 法規制強化への引き続きの対応 | ドライバー管理強化(2024年問題;就業時間の管理強化) 製品プラスチックの分別回収への見直し(廃プラ新法への対応) |
このように考えられる対応課題は多岐に渡り、いずれも効率的にかつ正確に対応を行うためには、最新のデジタル技術の活用が必須であるといえます。
廃棄物・資源循環分野における外部環境
DXの取組を考える上で考慮しておくべき内容として、外部環境もとても重要な要素となります。
産業界において、CN、GX、CE、DXへの対応が求められる中にあって、廃棄物・資源循環分野においても、変革の方向性を捉えた展開が求められています。
No. | 項目 | 廃棄物・資源循環分野との関係性 | 企業選択を巡る今後の動向 |
---|---|---|---|
1 | カーボンニュートラル(CN)、グリーンエネルギー化(GX)への対応 | CN、GX、SDGsは、全産業、全生活において対応が必要となる。 そのため、廃棄物・資源循環分野における未来像の創造が必要となる。 | CO2削減への努力、バリューチェーンにおけるデータ共有、ビジネスモデルの抜本的な見直しができない企業は選ばれない。 |
2 | 循環経済への対応(CE) | 廃棄物処理の「業許可」は存続するが、今後は、「所有せず」、「長寿命化」、「循環利用」などに向けて社会構造が変化する。 コスト削減も必要となる。 | 今後は、従来型の廃棄物取扱量は減少する。循環利用、コスト削減に対応できない企業は選ばれない。 |
3 | 人手不足、働き方改革 | 高齢化や、就業者人口の減少に伴い人手不足が深刻化する。 加えて、トラック運転手の就業状況等の規制強化等、働き方改革への対応が必要となる。 | 属人化の解消、生産性の向上を図らないと、働き手の確保ができなくなる。 ※いつまでも派遣労働者に頼れない。 |
4 | 法規制強化への引き続きの対応 | 廃プラ新法への対応、インボイス制度、建設発生土の指定処分、トレーサビリティ等の管理強化等、きめ細かい対応がさらに必要となる。 | 従来の業務管理に加えて、規制強化に伴う処理体系の見直し等が継続して必要となる中、これ以上の労働過重ではもはや対応できない。 |
これらの外部環境を踏まえ、環境DX化の取り組みとの連携が必須といえるでしょう。
また各項目のスケジュールに関してはこちらの表の通りです。
環境DXの実現に向けた検討の通常の流れ
では具体的に環境DXを実現するためにはどのような検討が必要でしょうか。
考えられるステップとして、まずはじめに「自社分野と目指す姿の構想」の後、ステップ2「会社横断的な取組課題の明確化」、ステップ3「対応戦略の作成」、ステップ4「実行計画の作成と推進体制の構築」として進めた後、DXの実現に向けた取組の実行を図ることが必要です。
また、それぞれのステップでは、こちらに示すような項目の検討が必要となります。
- 自社の処理事業の全体を俯瞰し、どんな領域の処理ビジネスを行っており、何を解決したいのか
- 今後、どのような役割や処理事業を目指したいのか
- ステップ1の実現に向けた取組課題について、「組織・業務改革」/「ビジネスプロセスの改革」/「新規のビジネスモデル構築」に区分して整理する
- 生産性向上、事業カテゴリー新設、省人化等の効果に対し、取組の優先順位を明確とする
- 対応内容について、ステークホルダー、デジタル技術の活用などを含めて、戦略の具体化を図る
- 誰と、どのように対応するかの体制の検討を行う
- 対応に要する期間、費用、対投資効果を明確とする
- 既存事業の維持/強化と、DXによるビジネスモデルの革新をどのように両立させるか
- DXの実現に向けた取り組みをどのように加速するか
このステップを一つずつ着実に実行していくことが大切です。
DXに関する参考資料
ここでDXに関する参考資料をご紹介します。
これらの参考資料をご覧いただくことで、DXの考え方を理解することができ、DXの具体的な進め方を検討しやすくなるでしょう。
- DXの概要と取組の進め方についてはこちら
- 廃棄物処理・リサイクルについてのDX化についてはこちら
これらの資料を参考にまずはDX化の検討から始めてみてはいかがでしょうか。
まとめ:次回、産業廃棄物処理業者の環境DX化の状況と進め方
今回は環境DXを行うにあたり、検討方法や流れについて解説しました。
次回は、「第3回 産業廃棄物処理業の環境DX化の状況と進め方」という記事で、大手産業廃棄物処理業者の環境DX化の推進状況や、大手4事業者と意見交換した結果を踏まえて、実際の環境DX化の対応方策(ポイント)について解説します。